
ヨガを始めたら、誰もが習う基本中の基本、山のポーズ。一見、ただ立っているだけのようですが、このポーズひとつでレッスンが成り立つほど大切なものです。
著者自身も「ちゃんとできている」と思っていたら、インストラクターさんから「腰が反れているので、お腹に力を入れて、腰をリラックスさせましょう」と、腰に手を添えられた経験があり、当時は驚きました。
そのくらい、山のポーズには自分では気づきにくい立ちかたのくせが表れます。骨盤の傾き、重心のかけかたなど、見直せるようになると、立ち姿の変化に気づけます。
そして、練習のあとで腰が痛いと感じたとき、「反り腰の状態でしていたのかも」と、冷静に自己判断ができますね。
また、このポーズを極めると姿勢が整い、肩こりや腰痛の緩和、美脚や、疲れにくい立ちかたの習得につながります。
「ただ立つだけ」で終わらせないために、山のポーズの奥深さを知ってくださいね。
- 山のポーズで猫背・反り腰になる原因
- 自分の姿勢を確認できるチェックリスト
- 姿勢を整えるための修正ポイントとおすすめポーズ

自然としているので気づきにくいですが、立つ姿勢は重力に逆らっています。
そのため、姿勢に関わる筋肉が弱まっていたり、強張っていると正しい位置に保つことができません。 猫背や反り腰のとき、以下の状態になっているはずです。
- 抗重力筋が衰えている(体幹の筋力が弱い)
- 股関節が硬い
- 重心が前後、左右均等でない
抗重力筋は、重力に逆らって姿勢を保つ筋肉で、足から首まである筋肉群の総称です。この筋肉群が、常に体にかかる負荷(重力)に対し、バランスを保ちながら体を支えています。
ただし、立ち仕事やデスクワークで長時間同じ姿勢でいる、いつも同じ肩にカバンをかけて歩いているなど、日常生活の体の使いかたに偏りがあると、筋力にも左右、前後のアンバランスが生まれてきます。
そうなると、姿勢のゆがみを解消していた筋肉群が機能しなくなります。
抗重力筋のアンバランスを整えるには、プランクポーズなどで腹筋や体幹を鍛えて上体を持ち上げる力を養い、キャットアンドカウや体側を伸ばすポーズで背中の緊張をほどいて整えましょう。
また、カバンを肩に左右交互でかける。足を組んで座らないようにするなど、日頃の体の使いかたにも左右差が出ないように気をつけることも重要です。

長時間座る生活は、股関節を硬くする原因の一つです。デスクワークなどで座りっぱなしの状態が続くと、股関節周りの筋肉は同じ姿勢で緊張し、動きが少ないため凝り固まってしまいます。
たとえば、上半身と下半身をつなぐ腸腰筋は常に折り曲げられ、骨盤を支えるお尻の筋肉は圧迫されて血行が悪くなります。これらの筋肉がうまく働かなくなると、股関節の動きが悪くなり、骨盤が傾くなどの不調につながることも。
これを改善するには、股関節周りの筋肉をほぐして動きやすくすることが大切です。下記のポーズなどを取り入れて、凝り固まった筋肉をケアしていきましょう。
- お尻や太ももの外側をほぐすポーズ
(4の字のポーズやワニのポーズなど) - 上半身と下半身をつなく筋肉、腸腰筋を伸ばすポーズ
(半分のカエルのポーズやハイランジ、三日月のポーズなど)

また、股関節が硬い人は、意識的に骨盤を動かすことも苦手です。骨盤を前後に動かすヨガのコンパスをすると感覚がつかめますよ。これは、ピラティスでいうニュートラルポジションのエクササイズです。

おなかやお尻、腰、股関節の筋肉を使って骨盤を前後に動かします。このとき、おなかの上に両手で三角形に作り、その中にビー玉があることを想像します。このビー玉を、上下、中央に移動するイメージを持ちながら骨盤を動かします。
<準備>
仰向けになり、両ひざを立てる。
両手をおへその上におき、人差し指、親指どうしをつけ、三角形を作る。
両手の形を保ったまま、人差し指の指先が、おへその下にある骨の出っ張り(恥骨)部分にあたるよう位置を調節する。
①ニュートラルポジション(水平)
下腹部を使って、おなかを平らにする。
腰と床との間に、手のひら1つ分のすき間が入るように骨盤を調整する。
三角形の中のビー玉は中央あることをイメージする
ここで呼吸を整えます。
②骨盤の前傾
息を吸いながら、腰を床から持ち上げる。
三角形の頂点、人差し指が下に傾くように、腰やおなかを持ち上げ骨盤を前傾させる。
三角形の中のビー玉を頂点移動させるイメージで動かす。
③骨盤の後傾
息を吐きながら、腰を床に押し付ける。
おなかを凹ますように、下腹部も床に近づけて、骨盤を後傾させる。
三角の底辺が下に傾き、ビー玉も底辺に移動させるイメージで動かす。
①→②→③→①の順で何回か繰り返して、骨盤を前後に動かしましょう。緊張は体の動きを悪くします。リラックスした状態で望んでください。
はじめは動かしづらいかもしれません。「しているつもり」の気持ちをもって練習してください。徐々にできるようになりますよ。
腰痛や肩こりがある人は、重心に左右差や前後に偏りがあります。街で見かける姿勢がよくない人は、だいたい肩や腰が左右のどちらかに傾きがちです。
重心が前後左右に均等になっている人は、足裏3点(もしくは4点)、かかとの左右両側、親指の付け根、小指の付け根で均等に床を捉えています。また、足首も柔らかく、足裏の3点を捉えやすくしています。
足裏の使いかたが出来ると、重心がすねの内側にある骨、脛骨の下にきます。この重心の延長線上に、ひざ、骨盤、肩、耳があると、無駄な力を入れずに立てるようになる。これは脛骨直下の姿勢と呼ばれている立ちかたです。ただし、脛骨直下点の立ちかたも、骨盤が傾いているとできません。
そして、足裏がしっかり捉えられない人は、足首が硬く、足指が動かしづらいかもしれません。足元にタオルを置いて、足指でタオルをつかむタオルギャザーや、お風呂上りに足首をまわすなど、足首を柔らかくしてくださいね。
また、市販で売られているヨガソックスには、足裏を使いやすくするものもあるようです。

ここまで紹介した「筋力の衰え」「股関節の硬さ」「重心の偏り」は、姿勢が崩れる主な原因です。では実際に、自分の立ち方はどうなっているのでしょうか?
気になる人は、下の図解のチェックリストを見ながら、鏡の前で確認してください。
どの項目に当てはまるかがわかると、この後で解説する「反り腰・猫背の改善方法」に役立てやすくなります。

反り腰な人は無意識に背中を前に反り出しています。それにより骨盤が前傾しています。また、立つ姿勢に以下のような特徴があります。
- みぞうちを突き出している
- お尻を突き出している(尾骨を後ろに向けている)
- 重心が足指寄りに
- 太ももの前側が張っている(重心が前のめりのため)
- ひざを伸ばしすぎている(太ももの前側が前に出ているため)
反り腰ぎみの山のポーズは、次のことを意識すると、姿勢が改善します。
- 肋骨を引っ込める
- 腰の力みを和らげる
- お尻を引っ込める(尾骨を下にする)
- ひざの裏側は1㎜緩める気持ちで伸ばす(伸ばしすぎに注意)
- 下腹部に力を入れ、足裏3点で床を踏みこむ
反り腰を改善するには腸腰筋や太ももの前側の筋肉を伸ばすポーズをしましょう。太ももの緊張をほどき、骨盤を動かしやすくします。(半分カエルのポーズ、三日月のポーズなど)
また、過緊張している腰の筋肉をほぐすポーズもします。背中を丸くして筋肉の緊張をほどいてくださいね。(ガス抜きのポーズ、猫のポーズ、チャイルドポーズなど)
自分はどうなのか気になる人は、自分が見えないところで山のポーズをとりましょう。そのとき、両手を腰に置いてみます。反り腰の場合、腰が力んでいることがわかります。目を閉じておこなうと、反り具合が顕著にでますよ。
図解のチェックポイント
下記の図では、反り腰傾向にある人の姿勢の特徴と修正方法が描かれています。
反り腰の人は、腰に負担がかかりやすく、重心が前側に傾いているのが特徴です。
図解のように「尾骨を下げる」「下腹部をしめる」と意識すると、正しい立ち姿に近づきます。

猫背な人は、下腹部や太ももの付け根にある筋力が弱くなっています。それにより、おなかが後ろに引っ込み、骨盤が後ろに傾きます。以下のような姿勢になりがちです。
- お尻や太ももの背面の筋肉が硬く、強張っている
- 背中が丸まり、胸が縮こまっている
- 顔や目線が下向き
- 重心がかかと寄りになっている
猫背気味の姿勢の山のポーズは、次のことを意識すると、姿勢が改善します。
- 背中や肩の凝りをほぐして、胸を開きやすくする
- 顔、目線を正面にする
- 太ももの強張りをほどき、柔軟性を高める
- 下腹部に力を入れ、足裏3点で床を踏みこむ
猫背を改善するには、お尻や太ももの裏側の筋肉を伸ばす前屈のポーズで、緊張をほぐし骨盤を動かしやすくします。そして、後屈のポーズ(コブラのポーズやバッタのポーズなど)をして、胸を開きやすくしましょう。
さらに、肩のコリをほぐすポーズで、強張りや凝りをほぐしましょう。(針の糸通しのポーズ、子犬のポーズ、ダウンドック、ワシのポーズなど)
図解チェックポイント
下記の図では、猫背傾向にある人の姿勢の特徴と修正方法が描かれています。
猫背の人は、背中が丸まることで、肩や首、お腹に負担がかかりやすいのも特徴です。
図解のように「胸を開く」「目線を正面に保つ」を意識すると、姿勢が自然に整いやすくなります。

なお、前屈については、こちらで詳しく解説しています。ぜひ参考にしてくださいね。

立つことに苦手意識を持つようになったら、まずは、山のポーズをとって自分を鏡の前で観察してみましょう。もしかすると、筋力バランスが崩れているかもしれません。反り腰、猫背は長年のくせなので、正すには多少の時間がかかります。ときどき自分の姿勢を見返してくださいね。
「姿勢を正すと自分の気持ちも変わる」と言われるように、姿勢は私たちにとってとても大切です。山のポーズを通じて、ご自分の不調を少しずつ改善してくださいね。
ただし、正しい位置でポーズを取っていても、体が無理していると感じたら、楽にとれる位置でかまいません。骨格の形は人によって微妙に違います。少し骨盤が前傾していても腰に緊張感がなく、見た目もまっすぐであれば問題ありません。